
生まれてまもなく捨てられたホトトギスは、何を叫んで良いのかも分からず空を舞っていました。金木犀のいい香りがしていました。
町へ出て立ち止まると目の前に広がるのは、夏の終わりを告げる優しさと、目にしみる風でした。青林檎の味がしました。
どこを探しても素敵な眺めが見つからないと感じ、この町にさよならをしようとホトトギスは決めました。
少し早い秋雨の中、靴を脱いだ女性がふと語りかけてきました。
「次の角を右に行ったら、飛び降りれますか?」
雨上がりの夕焼けに背を向け、まだ見ぬ朝焼けを目指して、終わりのない旅に出ます。
紅の船の上で羽を休めたホトトギスは、道を教えた女性を思い出して引き返す事にしました。
とても懐かしい匂いがしていました。
女性はいなくなっていました。緑色の靴だけが、右に曲がった角にそっと置いてありました。金木犀のいい香りがしていました。
町へ戻って立ち止まると目の前に広がるのは、冬を告げた寂しさと、背筋の凍る寒さでした。緑のみかんの味がしました。
今年最初の粉雪の中、希望の杖を持った老人がふと語りかけて来ました。
「この道を真っ直ぐ行っても構わないのかぃ?」
かじかんだ足の先をいたわり、難しい知恵の輪を見つめながら、始まってしまってしまった終わりを迎えます。
黄金色の屋根で羽を休めたホトトギスは、道を教えた老人を思い出して引き返す事にしました。
とても温かい匂いがしていました。
老人は倒れていました。折れた杖だけが、真っ直ぐと道の先を指していました。金木犀のいい香りがしていました。
道の途中で立ち止まると目の前に広がるのは、もの凄い豪雨と大声を上げて近づいてくる竜巻でした。もう味はしませんでした。
人生最初で最後の大嵐の中、ぬいぐるみを持った女の子がふと語りかけて来ました。
「夢って見なきゃいけないの?」
分厚い雲を必死にかき分け、曇ってしまった瞳をこすって、終わりの準備を始めます。
台風の目の中で羽を休めたホトトギスは、夢を失った女の子を思い出して引き返す事にしました。
とても切ない匂いがしていました。
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