或る暮れに渡し合った契りの輪
1クール程で
男の胸元からこぼれ落ちたそうな
女は悲しんだが
男の悲しみ方たるや
それはそれは酷かったそうな
それから時の経つこと半年余り
とある用事で
ポリス屋に足を運んだ男は
不意に紛失届を出したそうな
何を今更
男はそう思いながらも
やはり諦めきれなかったらしい
見切りの為
はたまた輪と想いへの供養の為
それから数週間が経ったある日の事
突然鳴った白い電話には
住処と同じ市外局番
しかしながら知らぬ番号
恐る恐る耳にあてると
「確認しに来てください」
という言葉が届く
まさかまさかという期待
いやいや今更という諦め
閉じ口のついたビニール袋
中にはあの日落とした契りの輪
落とした場所は集合住宅の階段付近
そこからあれよと転がって
植え込みの中にいたそうな
あの夜探した暗闇に
実はほんとに落ちてたそうな
埋まって隠れた黒い輪が
寒い季節に埋れた輪が
雨で土から顔を出し
集合住宅の月一掃除
土を耕す熊手の先に
黒い輪1つ
引っ掛かったそうな
こんな奇跡があるのかと
想えば必ず叶うのかと
男はそれを握り締め
輝きを戻そうと足を運ぶ
やがて磨きのかかった契りの輪
手元で輝く契りの輪
誰にも言えずに契りの輪
伝える事も出来ぬまま
男は首に鎖を巻きつけ
二度と落ちぬ様くくりつけた
或る暮れに渡し合った契りの輪
ただ自分の為だけに
誰にも言わぬと決めたそうな
隣の町の男の話
声も出せず
想いも届けられず
隣の町の男の話
胸に埋れて
お眠りなさい
再び輝くその日まで
胸に埋れて
お眠りなさい