昔々あるところに、それはそれはおてんばなお姫様がいました。
お姫様は、大きくなったら違う国の王子様と結婚する事が決まっていました。
鼻は低く足も短く、お姫様からはほど遠い風貌をしたお姫様は、お城の外で暮らしている市民の生活にとても興味を抱いていました。
「あの人達はどんな生活をしているんだろう」
そう思ったお姫様は、ある夜こっそりとお城を抜け出し、馬にまたがって街へと出てしまいました。満天の星空がお姫様をお見送りしていました。
街へ出て、正体がばれぬ様にとこっそり馬を降りようとしたところは、広場の裏にある馬小屋でした。他の馬と一緒にしてしまえばバレないと思ったのです。
その日は国の感謝祭。ボロ切れに身をまとった市民が広場の真ん中で、お酒を片手に飲めや歌えやの大騒ぎです。お姫様は心が躍り、何もかも忘れて一緒には しゃぎました。
すると突然音楽は止み、歌声が消え、みんながお姫様を見ていました。お姫様はそれはそれは綺麗な洋服を着ていたので、仲間ではないと気づかれてしまったの です。
「あんなに鼻が低いのに、あんなに足が短いのに、次の感謝祭にはあいつの為に貢ぎ物をしなくちゃならないのか」
口々に市民は愚痴をこぼし、広場はいつの間にかお姫様とお酒の匂いだけになってしまいました。
何が起きたのか分からないままでいるお姫様の方に、ちょこんと蛙が乗りました。
「ここは天国。ここは地獄。天国があるから地獄がある。地獄があるから天国がある。お前はそれを受け入れる。お前はそれを受け入れる」
お城に住んでいる王様とお妃様は国に忠誠を誓った部下の一人を呼び、お姫様を監視するよう言い伝えました。
街へ来たのは良いものの、何から始めれば良いか分からないお姫様は、焼きたてのパンの匂いに誘われて街の外れまで来ていました。気づけばもう朝日の昇る時 間に近づいていたのです。
突然、お姫様は大声で笑ってしまいました。いつもより早く、ニワトリの代わりになってしまったお姫様の笑い声は、街中の市民を起こしてしまいました。
ゾロゾロと集まってくる市民の一番前にいたのは、パン屋の主人でした。
「何をそんなに笑っているんだぃ」
主人は白くて長い帽子を取りながらお姫様に話し掛けました。
「だって、お父様とお母様は嘘を言っていたんですもの」
何を言っているのかさっぱり分からないまま、主人が、他の市民が、揃って首を左に傾げます。
「お父様は私にこう言ったの。『お前は国で一番大きな家に住んでいるんだ。だからお前はこの世で一番の王子様に迎えてもらわなくてはいけない。母さんもそ うしたし父さんもそうした。じい様とばあ様もそうしたのだのだから』って。だけど、私の家はあんなに小さいんですもの」
みんなは大笑いをしました。お姫様は何故笑っているのか分かりませんでした。
「お前さんはここへ来るまでに振り返らなかったのかぃ?段々お城が小さくなていかなかったかぃ?あれはお城が小さいんじゃなくて、ここから遠くにあるから 小さく見えるだけなんだよ」
「貴方はここで何をしているの?ここからとても素敵な匂いがして来て…」
そこまで言って、お姫様は倒れてしまいました。お城を出てから今まで、何も口にしていなかったのです。