昔々の、とある名前のない国の話。
王様もお姫様もいないその国では誰もが、それはそれは素敵な服で自分を着飾ります。カシミアにシルク、コーデュロイにスウェード。生地は違えど、みんなが みんな少しの隙もなく、それはそれは美しい姿で街を歩きます。暑くても寒くても、それが変わることは決してありません。毎日毎日、ありとあらゆる手段を 使って奇麗に着飾り、ありとあらゆる手段を使って完璧な姿と態度を維持します。
道ですれ違えば当たり障りのない会話をし、興味のない話にも笑顔で相づちをうち、例え興味のあることでも、普段と同じ態度で接します。
しかし雨が降ると、みんなは我れ先にと家を飛び出し、誰もいないところを探し、そこで服を脱ぎ、両手を大きく広げ、空に笑い空に悲しみ、日々に歌い日々に 叫び、雨とともに涙を流すのでした。
いつか僕が、誰かの雨になれますように。