
… とはいえ、現実的には何とも無茶苦茶な展開であったのには間違いなく。3月の末に想いを伝えたのは良かったのだけれども、僕は4月の3日には名古屋に行か なければならなかったのだから。
お泊まり会から帰って来た次の日、月が変わって4月1日。残り2日の猶予を残してはいたものの、彼女は1日から大学生活が始まり、まるっとどこかへ遊びに 行って思い出作り、なんていう事は到底出来そうになく。
それでも初めのうちはまだ講義も始まっておらず、空いた時間にあわせて僕は家を出、彼女と喫茶店でお茶をするくらいの時間はあり。話の内容といえば、一足 先に大学生活を始めた彼女の、大学に対する印象だとか、これからどうしようね、とか。時間だけが確実に過ぎていく、時間は人々に平等に与えられていないん じゃないかってくらいに、時はあっという間に過ぎ、そうしてさよならの時間がやって来て。
出発前日。…っていっても実際は次の日なだけ。
僕は彼女に手紙を渡すべく、大学帰りの彼女を呼び出し。少し走って来てくれたのか、息を切らしてお決まりの喫茶店に入って来た彼女は、2日目にして既に大 学生活を楽しんでいる様にも見え。
これから僕らは、まるっきり違う環境で、まるっきり違う土地で、新たな生活といっぱい出会う事になるでしょう。喜んで、悲しんで、楽しんで、はにかんで、 そうやっていっぱい学んで、素敵な大人になっていく事でしょう。勿論恋だっていっぱいするに決まってる。
だからせめて、カッコいい奴が現れてしまったら、そいつに色仕掛けをする前に、そいつに告白してされてしまう前に、告白してしまう前に、「カッコいい奴リ スト」を作って送ってください。顔だけで判断するのは何とも相手に失礼だけども、「さすがにこいつはやめて」的な人だったらちゃんと注意するので。
彼女に渡した手紙はその場で読まれる事なく、その日も僕らは他愛もない話をして、そうしてまたさよならをして。これで彼女の顔をまともに見られるのは最 後、次に会えるのはきっと夏休み。春休みのうちから夏休みの事を考えたのは初めて。少し遅くなったお昼ご飯を家で食べていたら、テレビの向こうで「今日の 晩ご飯」的な番組を見てしまったくらいに、それはもう何とも不思議な気持ち。
その日の夜に彼女と電話をしていたら、出発する日の時間によっては駅で会えるかも知れないということが分かって、僕はその時間に合わせて出発する事にし て。最寄りの駅はそれぞれ違うのだけど、その路線がちょうど交差する駅があって、そこで少しだけ会おうということになり。
神様は残酷な奴。七夕の一件があって以来もう懲りたと思っていたのに、僕らにもこんな仕打ちをするんだもの。…なんて、自分達が決めた進路を神様のせいに したところで、そこまですっきりする事もなく。
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